腎臓内科とは
「腎臓内科」と聞くと、まっさきに透析治療を思い浮かべる方もいらっしゃるのではないでしょうか。腎臓の機能が大きく低下し身体のバランスを整えることができなくなると、腎臓機能の一部を補完する治療のひとつとして透析治療や腎移植治療が必要不可欠になって参りますし、こういった治療も腎臓内科医の大きな役割の一つとなっています。
しかしながら、当院では透析や腎移植をおこなうことはできません。
むしろ、そういった治療が必要になることがないよう、みなさんの腎臓を守るための診断と治療をおこなっております。腎臓に影響を及ぼす要素をひとつひとつ明らかにして、腎臓、ひいてはからだ全体を守るためにできることをご提案させていただきます。
急性腎不全と慢性腎不全
腎不全には、急激に腎機能が低下する急性腎不全と、長い年月をかけてゆっくりと悪化する慢性腎不全があります。急性腎不全の場合は、適切な治療によって腎機能が回復する可能性があるのに反し、慢性腎不全の場合は、失われた腎機能の回復はほとんど見込まれないとされています。
急性腎不全の主な症状は、乏尿(尿の出が悪くなる)や、無尿(全く尿が出なくなる)などが見られます。慢性腎不全では、初期症状はほとんどありませんが、腎機能の低下によって夜間の尿量が増える、眼のまわりや足のむくみ、疲労感、食欲低下、息切れ、皮膚が痒いなどの症状が現れます。
腎臓の役割
腎臓の役割は以下の通りです。
- 血液を濾過し、不要になった物質や毒素を尿として排泄する
- 血圧を調整する
- 水・ミネラルを調整する
- 骨・ミネラルの代謝を調整する
- 造血ホルモンを分泌して血液量を調整する
腎臓疾患によって起こっている可能性のある症状
1倦怠感や慢性的な疲労感
日常的に、原因不明の倦怠感や疲労感がある場合は、腎臓の疾患によって現れている場合があります。倦怠感や疲れが気になる場合は、早めに当院を受診してください。
2高血圧
血圧をコントロールに重要な役割を担っている腎臓の機能が低下することで、高血圧を引き起こす場合があります。また、血圧が高い状態が続くと腎臓への負担がかかり、さらに腎機能が低下していきます。
3顔や手足のむくみ
まず手足やまぶたに違和感を感じむくみの症状に気づく場合が多いですが、心臓の周囲や肺、肝臓、胃や腸にもむくみの症状が現れることがあります。腎臓機能が低下することで、余分な水分や塩分の排出が滞ってしまいます。また、尿に含まれることのないたんぱく質が尿中に溶けだし、血中たんぱく質が低下してしまうことでむくみが生じることもあります。肺にむくみが現れると、呼吸困難が起こることがあるので非常に危険です。むくみの症状が続く場合は、お早めに当院にご相談ください。
4尿量・色の変化
腎臓病の場合、尿量が多くなったり、減ったりというような症状が現れます。健康な成人の尿量は1日に1000~1500mlですが、腎臓病末期の尿量では400ml以下になる場合があります。
また、尿が濁っている場合は、尿中に白血球が大量に含まれる膿尿が考えられます。膿尿は、尿路感染などによる炎症が原因の場合が多いとされています。尿が泡立つ、赤い尿の場合は、尿中にたんぱく質や赤血球が出ているなどの尿の色や性状の変化がみられる場合も、腎炎など腎臓疾患の疑いが考えられます。尿量に変化があった際はお早めにご相談ください。
5たんぱく尿
尿中にたんぱく質が出ている状態をたんぱく尿と言います。本来、尿中にたんぱく質が出ることはほとんどありません。尿中にたんぱく質がでる状態ということは、腎臓に炎症がおきちたり、大きな負担がかかっている可能性が考えられます。そのような状態を放置することは、腎臓の障害をさらに加速させます。たんぱく尿は、原因によって治療法が異なるために、まずは正確な診断が必要です。たんぱく尿を指摘されたら、早めに当院を受診してください。
6尿潜血
一般的には、顕微鏡的血尿といって目には見えず検査紙や顕微鏡などの検査レベルでしか確認できないほどですが、尿に赤血球が混じっている状態を尿潜血と言います。また、目で確認できるものを肉眼的血尿と言います。顕微鏡的血尿は、糸球体腎炎など腎臓の細かい組織内での疾患が多く、肉眼的血尿は、腎臓や膀胱、尿管、尿道に結石や感染症、悪性腫瘍など、なんらかの異常がある場合に症状が現れます。疲労からの一過性の尿潜血もありますが、尿潜血を指摘されたらまずは原因を明確にする必要があるので、必ず受診してください。
おもな腎臓病・病態
1糖尿病性腎症 (DKD)
糖尿病における合併症のひとつに、腎臓機能障害があります。腎臓にある、尿を濾し出す「フィルター」のようなものが障害を受けたり、あるいは腎臓の細い血管が障害を受けたりすることにより、腎臓全体の機能が低下します。ステージ(病期)が早ければ厳格な血糖管理などによって腎障害の進行を遅らせることができますが、腎障害がかなり進展してしまうと、さまざまな治療によっても腎機能の悪化を食い止めることが難しくなってしまいます。
2慢性(糸球体)腎炎
あらゆる年代にみられる疾患です。慢性腎炎のなかにも多くの疾患がありますが、我が国で代表的なものは「IgA腎症」です。通常は無症状であり、学校健診や会社健診の尿検査異常(蛋白尿・血尿)が診断のきっかけとなります。確定診断は腎生検(腎臓の組織検査)によります。疾患やその重症度にもよりますが、ステロイド剤や免疫抑制薬、あるいは一部の血圧の薬などを併用して治療にあたります。やはり早期発見と、継続的なフォローアップが非常に重要です。
3腎硬化症
腎臓に分布する中小の血管が動脈硬化によって細くなり、血流が悪くなって、その部分の腎組織が徐々に機能を失っていく病気です。動脈硬化の原因はさまざまで、加齢、高血圧、喫煙などが有名ですが、複数の因子が重なり合っていることがほとんどです。健診などをきっかけとして病歴や画像検査などで早期診断を図り、原因に対して適切な治療を早期からおこなうことが重要です。
4多発性嚢胞腎
遺伝的な発症因子が深くかかわる疾患です。嚢胞(のうほう)と呼ばれる水風船のようなものが両側の腎臓(ときに肝臓その他の臓器)に多発し、それらが大きくなる過程で腎臓の正常組織が影響を受けて、最終的には腎不全にまで至ることがあります。孤発例(遺伝的背景がはっきりしない)例もありますし、遺伝形態や発症形態もさまざまです。肉眼的血尿や発熱・腹痛といった自覚症状がきっかけとなり診断に至ることもありますが、健診などで偶然発見される例も少なくありません。心臓弁膜症や脳動脈瘤などの合併リスクが高いことが知られており、適切な診断と全身の精密検査が求められます。残念ながら現時点では特効薬といわれるようなものはありませんが、定期的なフォローアップにより、腎障害の進展を遅らせる効果や、脳出血などの合併症で重篤な状態になることを未然に防ぐ効果は期待できます。
5自己免疫疾患(膠原病)
腎臓はさまざまな組織・細胞が複雑に入り組んで構成される臓器です。具体的には、血管やその支持組織、尿を濾し出すフィルターとそれらをまとめ上げる結合組織、さらには尿の成分を調整する細胞などですが、これらに対する「過剰な免疫反応」が腎臓に悪影響を及ぼすことがあります。腎臓と関連のある自己免疫疾患(膠原病)は多く、その中でも全身性エリテマトーデス(SLE)やANCA関連血管炎などは有名で、早期診断・早期治療がとても大切となります。ステロイド剤や免疫抑制剤、生物学的製剤などを、場合によっては組み合わせて使用し、病気が落ち着いている状態(寛解状態)を保つことで、腎臓機能障害の進展を抑制することができます。
6ネフローゼ症候群
「1日3.5g以上の尿蛋白排泄があり、血清アルブミン値 3.0 g/dl未満の低アルブミン血症がある」とネフローゼ症候群と診断されます。つまり、尿に大量のタンパク質が流れ出てしまうことで、血液中のたんぱく質濃度が低下し、全身にむくみ(浮腫)が出現する病態です。
ネフローゼ症候群に至ってしまう原因もさまざまです。原因が不明なもの(微小変化型ネフローゼ)から感染症、膠原病、血液疾患(多発性骨髄腫など)、悪性腫瘍まで、多くの疾患との関連が指摘されています。患者様の病歴や血液・画像検査、合併症、さらには腎組織検査(腎生検)などを総合的に判断して、ネフローゼ症候群の全体像を把握します。
症状としてはむくみ(浮腫)くらいであまり訴えがない方もいらっしゃいます。しかし、病態としては非常に重篤であり、腎機能障害や易感染性(免疫低下状態)、血栓・塞栓症や出血性疾患(血液凝固機能異常)などのリスクが高まると考えられていますので、早い段階での医師による診察が望まれます。
ネフローゼ症候群治療の原則はあくまで「原因疾患の治療」となりますが、原因不明な場合や、病状によってはステロイド剤や降圧剤、利尿剤などを組み合わせて治療にあたります。
基本的には、ネフローゼ症候群の急性期(病期が落ち着いていないとき)は安静・食事管理が必要になることが多く、入院での治療・検査となりますが、状態が安定していれば外来での定期的な経過観察も可能となります。