過敏性腸症候群とは
気の張る仕事や、発表会で登壇する時など、緊張のあまり腹痛をおこしトイレに行きたくなるようなことがあります。そういった大きなイベントの時だけなら、時々あることですませることもできますが、ちょっとした不安や緊張でそういった症状が頻繁におこり、トイレにいってしまえば症状が治まるようであれば、過敏性腸症候群(IBS= Irritable Bowel Syndrome)の可能性があります。
IBSは生命にかかわるような重篤な病気ではないのですが、トイレにかかわることは本人にとってみれば大きな生活不安です。
緊張や不安をきっかけにしていることから、心理的な問題で心を強くして頑張らなければ! とつい思ってしまいがちです。しかし過敏性腸症候群であれば、正しい治療をすれば治る病気なのです。
IBSは日本ではおよそ7人に1人というポピュラーな病気ですが、市販の下痢止めなどを服用してやりすごそうとすると、かえって悪化させてしまうこともあります。
こうした症状が頻繁におこるようであれば、当院までご相談ください。
IBSの診断基準(ローマⅣ基準)
IBSは以下の診断基準によって定義されています。
最近3か月の間に月に4日以上腹痛が繰り返し起こり、次の項目に2つ以上該当すること。
- 排便と症状が関連する(トイレにいけば症状が軽減するなど)
- 排便頻度の変化を伴う(トイレに通う頻度に増減がある)
- 便性状の変化を伴う(便の外観が変わったり、硬さが変わったりする)
6か月前から同様の症状があって、ここ3か月上記の条件にあてはまること。
※なお、ローマⅣ基準とは、国際消化器学会の提唱により定められた診断基準で、2016年に更新されたものです。
症状
便の形や硬軟によって、下痢型、便秘型、混合型、分類不能型と分類することができます。
混合型は下痢と便秘の症状を繰り返すもので、分類不能型は便型による診断方法のどの数値基準も満たしていないケースです。
IBSでは睡眠中に症状が起こることはなく、腹痛や下痢の症状は排便すれば軽快することが特徴です。
その他の症状としては、腹部膨満感、腹鳴(お腹が鳴る)、腸内ガスが溜まるなどがあります。
原因
はっきりとした原因はまだ解明されていません。ただ、IBSの患者さんは脳と腸との間で情報をやりとりする信号が通常より強くなっていること、それによって消化管に運動異常がおこっていること、また知覚過敏がおこっていることなどが関係しているのではないかと考えられています。
消化管(腸)の運動異常では、蠕動運動が強くなれば下痢、弱くなれば便秘の症状をおこします。
緊張や不安のほか、生活が不規則や過労、睡眠不足などがきっかけで発症することが多いのですが、その他にも細菌感染や腸内フローラの変化などもきっかけとなります。
これらのきっかけから知覚過敏をおこすと、脳にはそうした状態がすりこまれてしまい、さらに脳と腸の結びつきが強くなってしまう悪循環がおこります。
治療
過敏性腸症候群(IBS)では、下痢などの症状によって生活の質(QOL)が大きく低下してしまいます。そのため、つい市販の下痢止めなどに頼りがちですが、それではかえって悪化させることになりかねません。
1か月のうちに何度も緊張や不安から下痢や便秘をくりかえすような症状があらわれたら、一度当院までご相談ください。
薬物療法
腸内を保湿して便に適度な水分を与え便量も増やす高分子重合体や、腸管の運動をコントロールして下痢症状を緩和するセロトニン拮抗薬などを基本として、患者さんそれぞれの状態にあわせて、抗コリン薬や便秘治療薬などを処方します。
また、腹痛や下痢がおこりそうなときに服用すると、症状を緩和することができる薬もあります。
緊張や不安、ストレスが強い場合、抗うつ剤などを処方することもあります。
生活習慣の改善
社会的な不安やストレスなどがきっかけとなっておこることが多いIBSでは、規則正しい生活や食生活の改善など、生活習慣の見直しによって症状が改善、または快癒することが多く、大切な治療の一つです。
また食生活としては、1日3食を規則正しい時間に摂ることが大切ですが、とくに忙しいからといって朝食を抜くのは禁物です。
下痢や便秘に水分は重要です。ただし冷たい飲み物を飲むことによって、下痢症状を悪化させてしまうこともあります。症状が起こっているときは、温かい飲み物で水分補給をするようにしましょう。
嗜好品としては、アルコール類、辛みの香辛料などは腸を刺激し症状を悪化させる傾向がありますので、控えるようにしましょう。